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2018/07/09 ムルガブ~ロードサイド パミールの壁 Ak-baytal
ムルガブ、パミールホテル
朝は晴天で宇宙をそこに感じるような青空
昨日は気がつかなかったけど建物の前の花壇でキャンプしてる人もいて、そういう泊まりかたもありなのか……
このムルガブは標高3600ほどだがここから80km程先にパミールハイウェイの最高高所Ak-baytal 4655mが待ち構えている
距離的に丁度、登り終えて1日が終わりそうだけどそんな高地の過酷な環境でキャンプしたくない
なので、今日は峠の手前まで寄せてキャンプして、明日の朝一で超えたいという算段だ
奥から自転車を引っ張り出してきて自転車と荷の整備
玄関にキアヌリーブス似のめっちゃダルそうな男がめっちゃだるそうに、マジだりいよォ・・みたいなノリでベンチに腰かけていたけどこちらを見て気づくなり急に飛び起きて
「ワ、ワ、ワッツ!!おまえドゥシャンベでみたぞ」
「その赤い、スモールのバイク、いったいどうなってるんだ」
そんなことを言われてもこちらとしては普通に走ってきてるだけなので逆にライダーたちはそんな長い期間何をやってるんだって感じなんだけど。
「今日はここから60kmくらいのロードサイドでキャンプして、明日ピークを超えるよ」
荷の準備をしながら片手間にしばしルートの話。そんな話で最後に、
「じゃあ、オシまで気を付けて、ハバナイストラベル」といい男は建屋に入っていった
「なあ、話を聞いていたけど、おまえそのバイクで今日60km先まで行くって?その小さい自転車で???」
今度はなんだよと思えばずっと背を向けていた方、反対側隣でバイクの準備をしていたライダー
急に口を突っ込んできた
(フン??そのバイクで?パミール にぃいい??)みたいなノリのやつかよと
そういう少しばかり鼻で笑うようなオーラでライダーに話しかけられることは今までもあった
「荷物を積んで、そのスモールの自転車で、俺から言わせて貰えば………
おまえは…………クレイジーだ!!」
(と言って握手を求めてくる)
そういう後からアゲてくるパターンのやつかよ
なんか映画のワンシーンにありそうなシチュエーションでわらえた
ムルガブの町を出て振り返ったところ
道もわりとフリーダム感があるけど普通にアスファルトのメインロードを走る
この日も天気は良くて最高
気温は20℃くらい。常に向かい風の北風が吹き続けているが午前中はまだ弱い
午後から風が強くなり雲も多くなるのでその辺は山の天気っぽい
それからどういうわけかこの区間、いまだ、かつてないくらいのサイクリストがいる
あえるアイドル並みにあえるサイクリス
この日は同じ進行方向で15人くらい、向こうから来てるので10人くらい会ってる
更に、並走してて追いつかなかったり、後ろから追いついてこれなかったりしてる人もいることを考慮すると……
もうこの荒野にどんだけいるんだよ…
たまに向こうから来た人とこっちからの人とで井戸端会議が開催されどこに補給ポイントがあるどこで水が汲めるとかそんな情報交換がされる
景色はすこぶる良い
しばらく走っているとまた前に豆粒ほどのサイクリストの背中が見えてきた
追いついたのはスロベニア人のサイクリストで今日の走行のキーパーソンとなる男
実はドゥシャンベでもホログでも宿で会っているのでわりと挨拶はしてたんだけど、タイミング逃して名前は聞いてない
今朝もキッチンであったばっかりで2時間ほど前に「see you later.」と言葉を交わしたところだった。追いつくと反応は
「もう追いついて来たの?そのバイクで??…すごいな…!」とホログでも聞いたような反応
今までの至る所での反応から察するにパミールをミニベロで走る人はクレイジーらしい
それからパミールを走る人は年配がおおい。いままで色々なところを走ってきて経験豊富な筋金入りサイクリストが最終的に目指してくるところがここパミールなんだと思う
自分の知る限り20代で走っているのは彼と自分だけだったと思うので若いサイクリストはめずらしい
キャンプしようとしていたポイントはこの辺なんだけどペースが良くてまだ午前の10時くらい。加えて後ろには抜いてきたサイクリストがまだまだいるのでなんだか早仕舞いにするのも気が引けたのでイケるとこまで行くことにしようと思う
サイクリスト達と追い抜いたり追い抜かれたりしながら進む
とうとうメインの峠まできてしまった
峠のピーク数キロ手前に峠の看板がありそこにここまで何度も攻防したトーマスとスロベニアンの彼が休憩していた
ここの看板で写真を撮ってもらった
ここの標高は4300ほど
別にそれほどつらくもない
おしているのにめまい立ち眩みが頻発
目の前がテレビの砂嵐みたいになるのでそうなる前にハンドルにもたげてうなだれ呼吸が整うのを待つ
というか、あとから思えばこれだけしんどい思いをしたのはトーマスが競争しようとか言い出したせいだと思う
ここが峠の頂上、いままでの比じゃないくらいに酸素が薄いことを実感する
結局順位はスロベニアン、トーマス、自分、ジャーマンの順。ここまで来たら順位なんてどうでもよくなってて、誰も何も喋らなかったけど
冒頭のフランス人2人はテンション高めでコングラッチュレイショーンズと駆け寄って来たから何かと思えば車で頂上まで来てここで自転車を組み立てムルガブ方面に行くらしい
ここまで来て自転車じゃなく車を使うことを判断したことはむしろすごいなと思う
とことん登るところまできたのでここからは下り
達成感なんてのは考えることのできる余裕があって初めて生まれるものであって、上ではただ酸素が足りないとしか思わなかった
降って来るとやっと少し余裕が出てきたのか不思議な感情
このキツいと言われるパミールを走ることを選んだのには理由がある
ただ景色がいいところに来たいんだったらそれこそバックパッカーとして車でいい
ここに自転車で走る、パミールの走破を目標として掲げてきたのは景色以上にここを走る彼らに憧れがあったからだ
この荒野での、飯や飲料の確保、安全な寝床の確保、次々起こるトラブルへの対処、ツーリングには様々な要素の総合力とセルフマネジメント能力が要求される
自転車に乗らない人からすると自転車で移動することがすごいと思う事もしばしばあるようだけど、それこそ自転車を漕ぐ力、脚力なんてのはその中のほんの一部でしかない
彼らはつよい。その姿は憧れであり追いかけて来たものだった
ずっと、オレも仲間に入れてくれ…!
その一員に加えてくれないか……!
とそう思っていた
前を走る彼らの背中を見てやっぱりかっこいいなと思った。彼らは一人でここまで来てこれからも一人でこの先の旅路を走っていく
彼らはつよい
でも、そんな彼らだって私のことを、ここを走ったサイクリストとして認めてくれている
それが実感できた瞬間で、ここまで走ってきたことが報われた瞬間だったんだと思う
思えば人生なんて努力しても結果に結びつかないことの方が多い、まして[なりたい自分になる]ということに関しては気づいたらそうなっていたとか、そんなんで実感としてそれが得られるのもめずらしいことだと思う
弱い自分に打ち勝つ、まさにそういう意味だったのかもしれない
この峠を一人ではなく彼らと一緒に走れてよかったと思った
このへんの路面は綺麗なコルゲーション
これは車が高速で走ることで出来上がる洗濯板状の路面
小径は走破性が低くいちいちコブに引っかかるので最も苦手とする道
案の定他のサイクリスト達に大幅に遅れをとった
数日前に雨に濡れたままテントを畳んでいるので今日こそはテントを広げたいと思っている
地図によるともう少し進めばキャンプスポットがロードサイドにあるはず
地図のキャンプスポットについてみると驚いたことに民家
しかもホームステイの宿があった
宿は伝統的なヨルト。ここに泊まることにした
スロベニアの彼とトーマス、ベルギーのカップルが先にステイしていたので計5人のサイクリスト
ジャーマンサイクリストはまだ先に進んだらしい
驚いたのは、スロベニアンの彼はロシア語が話せる
英語が通じない宿との交渉は彼の語力のおかげでトントン進む
一泊90ソモニ朝夕食付き
さんざん食べ飽きたナンを食いたくないのはみんな同じようで、朝食はナン無しにしておかゆ状のコメの料理をオーダーしてくれた
ヨルトの中はストーブのおかげで暖かい
ここで話をして知るけどトーマスはイスタンブールから走って来てるらしいがめちゃくちゃ荷物が少ない
自転車だって吊るしで売ってるクロスバイクそのものでフロントホイールもラジアル組
いままでもパミールのみに焦点を絞って軽量化しハンモックしか持ってないサイクリストとかいたけど、長期でこれだけ荷が少ないのも珍しい。自転車乗りも旅の仕方もほんとに様々だなと思う
締めくくりまで素晴らしい、充実しきった日だった
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